取締役会は、Web会議システム等でリモート開催することが認められています。ただし、出席者が一堂に会するのと同等に、お互いが意見表明できる環境であることが条件です。コロナ対策によって取締役会のリモート開催の必要性が増していることを受け、取締役会のリモート開催の必要要件や留意点、議事録ひな形、開催の流れなどについて解説します。1. リモート取締役会の必要要件取締役会のリモート開催は、「出席者が一堂に会するのと同等の相互に十分な議論を行うことができる」場合であれば有効とされています。取締役会は、取締役が相互に協議を行い、意思決定を行う場であり、これが損なわれる状況での開催は認められません。具体的には、テレビ会議方式について、平成8年4月19日付法務省「規制緩和等に関する意見・要望のうち、現行制度・運用を維持するものの理由等の公表について」において一定の要件のもとで許容するとの解釈が示されています。また、電話会議方式についても、対面と同等に相互に議論を交わせるのであれば、許容されるものと解釈されています。(平成14年12月18日・電話会議の方法による取締役会の議事録を添付した登記の申請について・民商第3044号民事局商事課長回答参照)このように、対面での取締役会と同等の内容で実施できる環境であれば、リモート開催が認められます。ZoomやTeamsといったWeb会議システムを使用すれば、この条件を満たすことができるでしょう。ただし、詳しくは後述しますが、適切な設定がなされていなかったり、ネットワークが不安定な状態では、出席者が一堂に会するのと同等の相互に十分な議論を行うことができません。そのため、リモート取締役会を滞りなく開催する準備と、トラブル発生時の代替え策を用意しておく必要があります。2. 取締役会リモート開催の留意点取締役会のリモート開催を行うには、次の留意点を押さえる必要があります。通信状態等のトラブル時の対応方法を決めておく取締役会のリモート開催は、出席者がお互いに議論を交わせる環境であることが必要要件です。そのため、設定誤りや通信障害によってお互いの声が届かない、または音質が悪くて聞き取れない場合は、リモート開催の要件を満たすことができません。そのような状態で取締役会を進めた場合は、当該取締役は出席していないものとして扱われる可能性があります。そのため、各種環境面のトラブルに備えて、別のシステムの準備や電話会議への切り替えなどの措置を予め決めておくことが重要です。招集の方法取締役会を招集する際は、原則的に取締役会の日から1週間前まで(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間まで)に各取締役へ通知を発する必要があります(会社法368条1項)。通知の内容はひな形の項目で詳しく解説しますが、取締役会の開催日時や場所、出席者名、議長名などです。リモート開催の場合は、例えば下記のような参加に必要となる情報も通知します。使用するツール取締役会を開催するルームのURLアクセスキー、パスワード など議事録の記載方法取締役会では議事録を作成し、出席者全員の署名または記名押印を行うことが定められています。3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。出典:会社法369条3項取締役会の議事録の記載事項は次のとおりです。日時開催場所出席者名議長名議事の経過の要領およびその結果一部の取締役のみリモート参加の場合は、その他の取締役が会した場所が「開催場所」です。全ての取締役が別々の場所から参加した場合は、議長の所在場所を開催場所とします。議事録への署名押印は電子署名が可能議事録への署名押印は、電子署名が認められています。4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。出典:会社法369条4項第二百二十五条 次に掲げる規定に規定する法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置は、電子署名とする。六 法第三百六十九条第四項(法第四百九十条第五項において準用する場合を含む。)出典:会社法施行規則225条1項取締役会の議事録の内容が正確であり、異議がないことを判断した証明としては、電子署名で事足りるとの認識です。なお、登記において電磁的記録によって作成した議事録を提出する際は、電子署名の中でも「商業登記電子証明書」「公的個人認証サービス電子証明書」「法務大臣が定める特定認証業務電子証明書」等が必要となります。3. リモート取締役会の議事録のひな形リモート取締役会の議事録は、前述したとおり、日時や場所、出席者などの情報が網羅されていれば書式に指定はありません。固有の記述内容は下記の議事録ひな形をご参考ください。取締役会議事録日 時 令和〇年〇月〇日(〇曜日) 〇時〇分より場 所 本社会議室出 席 取締役総数 〇名 出席取締役数 〇名 監査役総数 〇名 出席監査役数 〇名議 長 代表取締役 〇〇〇〇議事の経過の要領およびその結果上記の通り出席(〇氏、Web会議システムを用いて出席)があり、本取締役会は適法に成立した。本取締役会で用いられるWeb会議システムは、出席者の音声及び画像が即時に他の出席者に伝わり、出席者が一堂に会するのと同等に適時的確な意見表明が互いにできる状態となっていることが確認された後、代表取締役〇〇〇〇は議長となり、取締役会の開会を宣し審議に入った。 <中略> 以上をもってWeb会議システムを用いた本取締役会は、終始異状なく全ての議事が終了したので、〇時〇分、議長は閉会を宣した。上記のように、使用したWeb会議システムによって一堂に会する取締役会と同等の環境を実現できた旨を記載する必要があります。4. リモート取締役会の流れここまで解説した内容を踏まえ、リモート取締役会の開催の流れを解説します。(1) リモート取締会の開催の承認を得るリモート取締役会を実施するには参加者全員の承認が必要です。リモート開催への理解を得られない状態で招集通知を出しても、当日不参加となる恐れがあります。リモート開催の目的やメリットを伝え、理解を求めましょう。取締役会は双方に議論を交わすことが目的のため、リモート開催を理由に意見表面に消極的になるようでは、開催の意義が失われます。(2) 招集通知を出す取締役全員の同意がある場合に限り、招集通知を発することなく取締役会の開催が可能です。前項の規定にかかわらず、取締役会は、取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができる。出典:会社法「368条2項」同意を得る方法に指定はないため、メールやチャットツール、口頭、書面などでも有効と考えられます。取締役会のリモート開催を行う状況にある場合は、書面や口頭よりもメールやチャットツールの方が適しているでしょう。(3) リモート取締役会の開催全取締役が通信環境が良好な場所でリモート取締役会に参加します。セキュリティの関係上、フリーWi-Fiの利用は推奨されません。また、不特定多数がいるコワーキングスペース、カフェ、公共交通機関の車内なども避けましょう。自宅もしくは会社の会議室から参加することが原則です。使用するWeb会議システムが問題なく接続できるか事前に確認したうえで、取締役会の開始を待ちましょう。また、電話回線を利用した参加方法を用意しておき、ネットワークの利用が不可能になった際は、速やかに電話会議での参加ができるように伝達しておくことが重要です。(4) 議事録の作成議事録は書面ではなく、画面録画ツールによる電磁的記録でも作成可能です。その際は、取締役会の出席者の電子署名が必要です。電磁的記録とは、CD-ROMやDVD-ROM、ハードディスク、ICカードなどを指します。例えば、画面録画ツールで取得した映像をパソコンのハードディスクに保存すれば、それは電磁的記録とみなされます。電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)出典:会社法「26条2項」(5) 登記手続き取締役会での決議事項において登記すべき事項がある場合は、登記手続きを行います。法務省の「登記・供託オンライン申請システム 登記ねっと 供託ねっと」でオンライン登記が可能です。なお、登記申請の際は取締役会の議事録の提出が必要ですが、オンラインで提出する場合は電子署名を取得しなければなりません。登記の際に電磁的記録によって作成した議事録を提出する際は、「商業登記電子証明書」「公的個人認証サービス電子証明書」「法務大臣が定める特定認証業務電子証明書」のいずれかの電子署名が必要です。このような手続きが負担となる場合は、登記申請はオンライン、添付の議事録などは書面で提出することも検討しましょう。4. まとめリモート取締役会を滞りなく実施するには、Web会議システムの用意やネットワークの利用が不可能になった際の代替え策の用意などが必要です。また、開催場所や日時、使用するWeb会議システムを適切に決め、取締役の理解を得たうえで準備を進める必要があります。これまでリモート会議やリモートワークを経験していない場合、リモート取締役会の開催に抵抗を覚えるかもしれません。コロナ対策や業務効率化の観点から見てもリモート取締役会のメリットは大きいため、この機会に検討されてはいかがでしょうか?関連記事取締役会議事録の電子化について|法務省による電子署名活用への見解含め解説 >>商業登記はオンラインでできる?|申請方法や利用可能な電子署名を解説! >>