バーチャル株主総会は、コーポレートガバナンスの充実および株主との対話促進を目的に導入が進められています。経済産業省の「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会 制度説明資料」によると、2022年8月31日時点で22社が実施しています。
また、開催に必要な定款変更議案を総会で決議した会社は316社です。以後はさらに導入企業が増加するでしょう。本記事では、バーチャル株主総会の開催の趣旨や開催方法などについて解説します。
1. バーチャル株主総会とは
バーチャル株主総会(バーチャルオンリー株主総会)とは、場所を指定せずに実施する株主総会のことです。株主はインターネットや電話などで株主総会に出席します。現行の会社法においては、リアル株主総会およびハイブリッド型バーチャル株主総会の開催は可能であるものの、バーチャルオンリー株主総会の開催は難しいとされていました。
バーチャル株主総会の種類
株主総会には、次の3種類があります。
- リアル株主総会……現実世界に設置した会場で行う
- ハイブリッド型バーチャル株主総会……現実世界の会場を設置し、実際に会場に行くかインターネットなどで参加する
- バーチャルオンリー株主総会……現実世界に会場を設置せず、インターネットなどの手段で株主総会を実施する
バーチャル株主総会と呼ばれているものは、上記のうち「ハイブリッド型バーチャル株主総会」と「バーチャルオンリー株主総会」です。それぞれの違いを詳しく解説します。
ハイブリット参加型バーチャル株主総会
ハイブリッド参加型バーチャル株主総会は、物理的な会場を設けるものの、実際に会場へ行って参加するかインターネットなどで参加するか選択できます。現行の会社法において開催が可能な方式です。
バーチャルオンリー株主総会
バーチャルオンリー株主総会は、物理的な会場を設けず、株主はインターネットなどで参加します。現行の会社法において、バーチャルオンリー株主総会の開始亜は難しいとされていました。
2. 一定の条件のもとでバーチャルオンリー株主総会の開催が可能になった
産業競争力強化法において、会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」に関する制度が創設され、一定の条件のもとでバーチャルオンリー株主総会を開催できるようになりました。
3. バーチャルオンリー株主総会の開催条件
上場企業であること
上場企業とは、金融商品取引法2条16項で定められた金融商品取引所に上場している株式を発行している株式会社のことです。
「定款の定め」がある
バーチャルオンリー株主総会を開催できる旨を定款にて定める必要があります。そのためには、株主総会の特別決議によって定款変更が必要です。ただし、「省令要件」の妥当性について経済産業大臣および法務大臣の「確認」を受けた場合は、施行後2年間(2021年6月16日から2年間)は「定款の定め」があるとみなすことができます。
この「省令要件」は以下のとおりです。
- 通信方法に関する事務責任者の設置(次項以降の対応にかかる事務を含む)
- 通信方法におよび通信障害が起きたときの対応、対策についての方針の策定(通信障害に関する対策方針※1)
- インターネット利用に支障がある株主の利益を確保するための配慮についての方針の策定(インターネットを使用することに支障のある株主の利益確保に関する配慮方針※2)
- 株主名簿への記載、記録がある株主の人数が100人以上
バーチャルオンリー株主総会の招集決定時に、上記の省令要件を全て満たしている必要があります。
※1 通信障害に関する対策方針の例
- 通信障害対策を講じたシステムを使用する
- 通信障害が起きた際の代替手段を用意する
- 通信障害が起きた際の対処マニュアルを作成する など
※2 インターネットを使用することに支障のある株主の利益確保に関する配慮方針の例
- 希望する株主にはバーチャルオンリー株主総会への参加に必要な機器を貸し出す
- 電話による参加が可能な通信手段を用いる など
4. バーチャルオンリー株主総会の招集の決定事項・招集通知の記載・記録事項
バーチャルオンリー株主総会を開催する際は、以下の事項を決定します。
- 場所の定めがない株主総会を実施する旨
- 事前の書面での議決権行使を認める旨(全株主に金融商品取引法に基づき委任状勧誘をしている場合は不要)
- 通信手段
- 「事前の議決権行使」をした株主が株主総会の当日に上記の通信手段を使用した場合における「事前の議決権行使」の効力に関する取り決め
招集通知の記載・記録事項
招集通知には、以下の項目を記載・記録します。
- 事前の書面での議決権行使を認める旨
- 通信手段
- 「事前の議決権行使」をした株主が株主総会の当日に上記の通信手段を使用した場合における「事前の議決権行使」の効力に関する取り決めの内容
- 株主総会の議事における情報の送受信に必要な情報(アクセスID、パスワード、URLなど)
- 「通信障害に関する対策方針」と「イターネットを使用することに支障のある株主の利益確保に関する配慮方針」の内容の概要
延期・続行
バーチャルオンリー株主総会は、通信障害によって著しい支障をきたす場合に、議長が延期、続行を決定することが認められています。この「著しい支障 」には、そのまま議事を進行して株主総会決議を行うことで、決議取消事由や決議不在自由に該当する可能性がある場合などが含まれます。
議事録の記載・記録事項
バーチャルオンリー株主総会では、通常は日時・場所を記載する代わりに、次のように記載する必要があります。
- 株主総会の日時
- 場所の定めのない株主総会とした旨
- 通信手段(「通信障害に関する対策方針」と「インターネットを使用することに支障のある株主の利益確保に関する配慮方針」に基づいた対応の概要も記載)
5. バーチャルオンリー株主総会のメリット
バーチャルオンリー株主総会の開催を検討する際は、そのメリットを理解したうえで自社に適しているかどうかを見極める必要があります。バーチャルオンリー株主総会のメリットは次のとおりです。
運営コストの削減
株主総会は会議室やホールなど、規模に応じた会場の確保が必要です。規模によってはコストが高くなりますが、バーチャルオンリー株主総会であれば会場の設営コストは一切かかりません。
多くの株主の参加が期待できる
バーチャルオンリー株主総会は遠隔地の株主も出席しやすいため、出席者が著しく少ないために日程変更を余儀なくされるリスクを大幅に軽減できます。
感染リスクの軽減
大勢が一堂に会する必要がないため、感染症のリスクを軽減できます。集団感染が起きると世間からバッシングを受ける可能性も否定できないため、リスク対策の一環としての導入を検討することが大切です。
6. バーチャルオンリー株主総会に関わる電子提供制度について
電子提供制度とは、株主総会資料をインターネット上で提供する際の規定を定めた制度です。2022年8月26日に「産業競争力強化法施行令の一部を改正する政令」が閣議決定され、株主総会資料の電子提供措置に関する制度に係る規定(会社法第325条の2から第325条の7まで)が2022年9月1日に施行されました。
これにより、バーチャルオンリー株主総会を開催する際に、電子提供措置に関する制度を利用する場合において、バーチャルオンリー株主総会特有の記載事項が定められました。
場所の定めのない株主総会に係る電子提供措置事項の内容 | 場所の定めのない株主総会に係る電子提供措置を取る場合の招集通知の記載事項 | ||
バーチャルオンリー総会に特有の記載事項 | 書面行使の旨 | ○ | ○ |
通信の方法 | ○ | ○ | |
事前行使の効力の内容 | ○ | ||
情報の送受信のために必要な事項 | ○ | ||
対策方針内容の概要 | ○ | ||
配慮方針内容の概要 | ○ | ○ |
引用:経済産業省「産業競争力強化法施行令の一部を改正する政令」
なお、株主から書面での交付を請求された場合は、それに応じなければなりません。
電子提供制度は、「電子提供措置をとる旨の定款の定め」がある会社のみ利用できます。電子提供制度について詳しくはこちらの記事をご覧ください 。
7. バーチャルオンリー 株主総会を開催する手続きの流れ
バーチャルオンリー株主総会を開催する際は、前述した「省令要件」を全て満たしたうえで、「申請書(様式第一)」と「申請者の定款の写し」「申請者の登記事項証明書」を「経済産業省 経済産業政策局 産業組織課」に提出します。
8. まとめ
バーチャルオンリー株主総会の実施により、多くの株主の参加が期待できるうえに運営コストの削減や感染リスクの軽減が可能になります。バーチャルオンリー株主総会の開催を検討される際には、今回解説した要件や手続きなどをご参考ください。