株主総会資料電子提供制度とは?趣旨・メリット・必要な準備・対応を解説

株主総会資料電子提供制度とは?趣旨・メリット・必要な準備・対応を解説

2022年9月1日に施行される改正会社法により、2023年3月以降に開催される株主総会から株主総会資料の電子提供制度が開始。株主総会資料を自社のホームページ等のWebサイトに掲載し、株主に対して当該ウェブサイトのアドレスなどを書面で通知できるようになりました。本記事では、電子提供制度の趣旨やメリット、必要な準備、取るべき対応などについて詳しく解説します。

1. 電子提供制度とは

画像引用:日本証券業協会

電子提供制度とは、株主総会資料をホームページなどのWebサイトに掲載し、そのWebサイトのURLなどを書面で株主に通知することで株主総会資料を提供できる制度です。従来は原則として書面での交付が必要でしたが、電子提供制度の開始により上記の手段で交付が可能になりました。

なお、株主は株式会社に対して「株主総会資料に記載すべき事項を記載した書面」の交付を請求できるため、株主総会資料の書面での交付が一切不要になったわけではありません。

2. 株主総会の書面決議(みなし決議)を行うにあたっての前提条件

従来では、株主総会資料は、招集通知とともに株主総会の2週間前までに株主に発送することが求められていました。電子提供措置を講じることで、株主総会の3週間前又は招集通知を発した日のいずれか早い日までにWebサイト上へ株主総会資料をアップロードし、株主がダウンロードできる状態にする方法が可能になります。

株主はWebサイトを通じて時間や場所を問わずに株主総会資料を確認できます。

企業側としても送付の手間と時間、印刷・郵送コストなどを削減できるうえに、株主総会資料が届いていないなどのトラブルのリスクも軽減するなど、メリットが大きい制度です。

3. インターネットを利用できない場合は書面交付を請求できる

株主は、「書面交付請求権」を行使できます。書面交付請求権とは、電子提供措置をとる発行会社の株主が発行会社に対して株式総会資料の書面での交付を請求できる権利のことです。主に、インターネット利用が困難なために株式総会資料を取得できない株主を保護することを目的に策定されました。

なお、書面交付請求を一度受けると、株主から撤回がない限りは次回以降の株主総会においても書面交付請求を受けたとみなされます。書面交付請求が累積すると実務負担が増加するため、株主が書面交付請求を行ってから1年が経過した際に、株主に対して書面交付を終了する旨を通知できます。

その際は、異議がある場合はその旨を述べるように催告する必要があり、催告期間は1ヶ月以上に定めなければなりません。異議を述べなかった場合は、株主の書面交付請求の効力が終了します。なお、書面交付請求権は失われないため、再び書面交付請求を受けた場合はそれに応じる必要があります。

4. 電子提供制度を利用できる法人

株式会社(特例有限責任会社も含みます)の他、以下の法人については、電子提供制度を導入できることとされました。

  • 一般社団法人
  • 投資法人
  • 信用金庫、信用金庫連合会
  • 労働金庫、労働金庫連合会
  • 協同組織金融機関
  • 相互会社
  • 特定目的会社
  • 医療法人
  • 漁業協同組合、漁業生産組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、共済水産業協同組合連合会
  • 森林組合、生産森林組合、森林組合連合会
  • 農業協同組合、農業協同組合連合会
  • 農林中央金庫

5. 電子提供制度の利用条件

電子提供制度の利用条件は、「新たに設立する株式会社」と「既存の株式会社」で異なります。それぞれ詳しく解説します。

新たに設立する株式会社

新たに設立する株式会社においては、設立時に作成する定款に「電子提供措置をとる旨」を定める必要があります。その際は、会社設立を登記する申請書に「電子提供措置をとる旨の定款の定め」について記載が必要です。

既存の株式会社

令和4年9月1日時点で振替株式を発行しているかどうかで利用条件が異なります。

令和4年9月1日時点で振替株式を発行している

令和4年9月1日の時点で、電子提供措置をとる旨の定款の定めを設けるための「定款変更の決議」をしたものとみなされます。この定款の定めについては、電子提供措置に関する登記の申請が必要です。

その他の既存の株式会社

電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議(株主総会の特別決議)を実施し、電子提供措置をとる旨を定款で定める必要があります。この定款の定めについては、電子提供措置に関する登記の申請が必要です。

6. 電子提供措置に関する登記の手続

電子提供措置に関する登記手続きについて、その方法を詳しく解説します。

新たに設立する株式会社の場合

電子提供措置をとる旨を定款で定めたうえで、設立登記の申請書の「登記すべき事項」に、該当する定款の文言をそのまま記載します。なお、電子提供措置をとる際に使用するWebサイトのURLや「書面交付請求を受けた際に、書面の内容を一部省略する旨の定款の定め」などは「登記すべき事項」に記載できません。

また、電子提供措置における定款の定めがある会社は、自ら電子提供措置をとるかどうかを決める裁量を持たないため、「自らの判断で電子提供措置をとることができる」といった記載の登記もできない点に注意が必要です。

既存の株式会社の場合

既存の株式会社は、以下のケースで登記申請する必要があります。

  • 電子提供措置をとる旨の定めを設定した
  • 提供措置をとる旨の定めを廃止した

なお、電子提供措置をとる旨の定款について、文言を変更することは想定されていませんが、「文言が変更された場合には、会社法第915条第1項の変更の登記義務が生じるものと考えられます」と法務局の資料で示されています。

また、電子提供措置をとる旨の定めを設定した際の登記については、令和4年9月1日時点で振替株式を発行している会社かどうかで手続きが異なります。

令和4年9月1日時点で振替株式を発行している会社

令和4年9月1日時点で振替株式を発行している会社は、6ヶ月以内に本店所在地において、「電子提供措置をとる旨の定款の定めの設定による変更の登記」を行います。

令和4年9月1日より前に株主総会の特別決議で電子提供措置をとる旨を定款で定めた場合も同様です。なお、令和4年9月1日から「電子提供措置をとる旨の定款の定めの設定による変更の登記」を行うまでの間に他の登記を行う場合は、これらを同時に登記しなければなりません。

登記すべき事項は以下のとおりです。

  • 電子提供措置をとる旨の定款の定め(定款の文言どおりに記載する)
  • 変更年月日(施行日の「令和4年9月1日」と記載する)

添付書類は、「当該会社が令和4年9月1日において振替株式を発行している会社

であることを証する書面(当該株式会社の代表者の作成に係る証明書)」です。

様式例を紹介します。


株主総会参考書類等の電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける旨の定款の変更の決議をしたものとみなされた場合に該当することを証する書面

 当会社は、改正会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和元年法律第71号。以下「整備法」という。)の施行日(令和4年9月1日)において、社債、株式等の振替に関する法律(平成13年法律第75号)第128条第1項に規定する振替株式を発行しており、なおかつ整備法第10条第2項の規定に基づき、当該施行日をその定款の変更が効力を生ずる日とする電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなされた会社であることを証明します。

令和〇〇年〇〇月〇〇日

〇県〇市〇町〇丁目〇番
株式会社 〇〇


代表取締役 〇〇 〇〇


令和4年9月1日より前に株主総会決議を経た会社も上記の添付書類が必要です。

なお、申請には1件につき3万円の登録免許税がかかります。

その他の会社

登記申請の期限は、当該定款変更の効力発生日から2週間以内です。本店所在地において、電子提供措置をとる旨の定款の定めの設定による変更の登記を行います。

登記すべき事項は以下のとおりです。

  • 電子提供措置をとる旨の定款の定め(定款の文言どおりに記載する)
  • 変更年月日

添付書類は、以下のとおりです。

  • 株主総会の議事録
  • 株主リスト

申請には1件につき3万円の登録免許税がかかります。

7. 電子提供措置をとる旨の定めの廃止手続き

株主総会での決議により、株式会社が定款を変更して電子提供措置をとる旨の定款の廃止を行った場合、変更の効力が発生した日から2週間以内に、その本店の所在地で「電子提供措置をとる旨の定款の廃止による変更の登記」を行う必要があります。

登記事項は以下のとおりです。

  • 「電子提供措置をとる旨の定款の定めを廃止した旨」
  • 廃止年月日

添付書類は次のとおりです。

  • 株主総会の議事録
  • 株主リスト

申請には1件につき3万円の登録免許税がかかります。

8. まとめ

電子提供制度を利用することで、株主総会資料を株主に送付する手間と時間、コストを削減できます。また、株主としても早い段階で株主総会資料を確認できるため、質疑応答での質問を検討しやすくなります。今回、解説した内容を参考に、電子提供制度の活用を検討しましょう。

2023年3月1日以降の上場会社等の株主総会では、原則、株主総会資料の電子交付が適用されるようになります。また、その他の法人も上記手続きを経て導入することが可能です。

導入にあたっては、電子交付のための各種環境整備に加え、書面交付請求へ対応するための準備が必要となりますが、運用が定着すれば、本制度がもたらす会社の業務効率化やコスト削減の効果は少なくないと考えられます。さらには、コーポレートガバナンスの充実、ひいては株主と会社の建設的な対話の促進を図るためにも、本制度により株主へ早期に充実した情報提供がなされることの重要性は高いと言えるでしょう。

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