株主総会の書面決議(みなし決議)とは、株主総会を開催することなく、書面または電磁的記録を用いて株主の同意の意思を確認し、決議があったものとみなす手続きのことです。これにより、物理的な会合を開くことなく、株主総会の承認を得ることが可能となります。
この記事では、株主総会の書面決議(みなし決議)の概要や具体的な手続き、必要となる提案や同意書面の内容、議事録の記載事項からひな形まで詳細に説明します。
1. 株主総会の書面決議(みなし決議)とは?
株主総会の書面決議(みなし決議)は会社法第319条に定められ、取締役や株主の提案に対して株主全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をした場合には、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます。決議の対象に制限はなく、普通決議はもちろん、特別決議事項も書面決議で決議することができます。
また、株主総会に報告すべき事項についても、会社法第320条に規定され、取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項について報告することを要しないことについて株主全員が書面または電磁的記録により同意があった場合には、当該事項の株主総会への報告があったものとみなすとされています。
・会社法第319条
(株主総会の決議の省略)
1 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
5 第一項の規定により定時株主総会の目的である事項のすべてについての提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた場合には、その時に当該定時株主総会が終結したものとみなす。
・会社法第320条
(株主総会への報告の省略)
取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす。
2. 株主総会の書面決議(みなし決議)を行うにあたっての前提条件
株主総会の書面決議(みなし決議)は、報告事項、決議事項ともに対象となり、また決議事項については普通決議のみならず、特別決議を要する事項にも採用が可能です。
また、取締役会の書面決議(みなし決議)のように、定款による定めも必要ありません。
ただし、決議の成立には全株主の同意が必要なため、上場企業など多数の株主が存在する場合に採用することは現実的でなく、株主が少数の未上場企業において活用される手段といえます。
実施に当たっては、書面決議(みなし決議)の提案と同意の記録や株主総会議事録を、決議の有効性を示す証拠として適切に作成・保管する必要があります。
3. 株主総会の書面決議(みなし決議)の利用ケース
株主総会の書面決議(みなし決議)は、以下のようなケースで利用されるのが一般的です。
1. 迅速な意思決定が必要な場合
時間的な制約がある場合に、株主総会を開催するための招集手続きや開催に必要な時間を節約できるため、迅速な意思決定が求められる場面で有効です。
2. 株主が地理的に分散している場合
株主が国内外に広く分散している場合、物理的に一箇所に集まることが難しいため、書面決議を利用することで株主全員の意思を迅速かつ効率的に確認できます。
3. 株主数が少ない場合
株主数が少なく、全員の同意を得やすい場合に、書面決議が効率的です。特に、家族経営の会社やベンチャー企業などで利用されることが多いです。
4. 定期的な決議事項がある場合
定期的に株主総会で行う決議事項(例:役員の再任など)や報告事項について、事前に全株主の同意が得られる場合に有効です。
5. 物理的な会合が困難な状況
パンデミックや自然災害など、物理的に会合を開催することが困難な状況において、書面決議が活用されることがあります。
6. 株主間のコンセンサスが既にある場合
事前に株主間で決議事項について合意が形成されている場合、書面決議を利用することで形式だけの会議開催を省略できます。
これらの状況において、株主総会の書面決議(みなし決議)は、迅速かつ効率的に会社の意思決定を行うための有効な手段となります。
4. 株主総会の書面決議(みなし決議)を行う場合の具体的な手続
株主総会の書面決議(みなし決議)は取締役または株主が株主総会の目的である事項を提案し、株主全員が同意の意思表示をすることによって成立します。具体的な手続きは、以下の通りです。
1. 目的事項と書面決議を行うことの決定
取締役が提案を行う場合、株主総会の目的事項と書面決議を行うことについて、取締役会設置会社であれば取締役会で決議を、そうでない場合は取締役が決定します。
役員の選任、定款の変更など、法令や各社の定款において株主総会で決議するとされている事項が対象となります。普通決議事項のみならず、特別決議事項も書面決議の対象となります。
なお、株主が提案する場合には取締役会決議(または取締役決定)は必要ありません。
2. 全株主への提案の通知
取締役会の決議等に基づき、代表取締役が株主に対して提案を行います。全株主に対して、株主総会の目的事項とそれについて書面または電磁的記録による同意の意思表示を求める提案を通知します。この通知には、決議事項の詳細、同意の方法、および返答期限を明記します。通知は書面または電磁的記録で行うことが一般的です。
3. 株主の同意の収集
株主全員から書面または電磁的記録により同意の意思表示を収集します。株主全員が同意しなければ(議決権を行使できる株主のうち1人でも反対する者がいる場合は)書面決議は成立しません。
4. 決議の成立
株主全員の同意が揃った時点で、書面決議が成立します。これにより、物理的な株主総会を開催することなく、決議が行われたものとみなされます。
5. 議事録の作成
書面決議が成立した場合、決議があったものとみなされた事項の内容、提案者の氏名・名称、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を記載して、株主総会議事録を作成します。
6. 登記手続き
決議内容に基づいて登記が必要な場合(例:役員変更、定款変更など)は、速やかに登記手続きを行います。
これにより、株主総会を実際に開催することなく、会社の重要な意思決定を迅速かつ効率的に行うことができます。
5. 株主総会の書面決議(みなし決議)を電子的に行うことは可能か?
会社法第319条第1項に「株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。」とされており、株主総会の書面決議(みなし決議)は、電子的に行うことが可能です。
決議の有効性を説明するために、実務面では下記の点に留意する必要があります。
・提案と意思表示方法の決定
電子メールや専用のオンラインプラットフォームなど、全株主が利用可能な手段を用い、会社からの提案とそれに対する株主の意思表示を行います。
・提案と同意の証拠保全
電子的な同意の証拠を保存します。電子メールの文面やログ、オンラインプラットフォームの記録などが該当します。
・セキュリティ対策
通信過程での情報漏洩のリスクや、電子メールの場合は誤送信リスクが生じるため、これらを回避する手段を講じることが望まれます。その点、通信の暗号化や閲覧可能ユーザーの限定などセキュリティの確保されたオンラインプラットフォームの利用は有効です。
株主総会の書面決議(みなし決議)は迅速かつ効率的に会社の意思決定を行う有効な手段であり、提案や同意取得をデジタルで行うことにより、その効果が最大化されるとも言えます。
6. 株主総会の書面決議(みなし決議)の同意の取得方法、提案書と同意書について
株主総会の書面決議においては、株主が会社の提案内容に対し同意することを意思表示し、その記録を残すことが必要となります。
同意の意思表示は、株主が署名/記名捺印した同意書面を返送するケースや、メールやオンラインプラットフォームを用いて電磁的に回答をするケースがありますが、いずれにおいても書面決議を定める会社法第319条に照らし、提案または同意の意思表示には以下のような記載事項が含まれるべきです。
- 会社の名称、提案者、提案日、同意の意思表示の方法、返答期限
- 書面または電磁的記録(電子メール等)など、提案に対する同意の意思表示の方法を明記し、返答期限までの返答を株主に求めます。
- 目的事項の内容
- 具体的な目的事項の内容を記載します。株主側で実質的な判断が可能となるレベルの詳細な説明が必要です。
- 目的事項に対する賛否
- 同意があったとみなすためには、株主が目的事項に対して同意する旨が明示される必要があります。
- 株主の氏名または名称
- 同意を表明する株主の氏名または名称を記載します。
- 同意の日時
- 同意の意思表示を行った日時を記載します。これは、同意の有効性を確認するために重要です。
(参考)株主総会の書面決議(みなし決議)提案書/同意書ひな形
〇年〇月〇日
株主各位
住所
会社名
代表取締役名
株主総会目的事項のご提案
当社の第〇回定時/臨時株主総会に関して、下記の各事項について提案します。
本提案についてご同意いただける場合には、●年●月●日までに、[添付同意欄に署名/記名捺印のうえ当社宛にご提出](※書面での回答を求める場合 ) / [電子メールにてご同意いただける旨の返信](※電子メールでの回答を求める場合) をお願い申し上げます。
記
株主総会目的事項
1 報告事項
当社の第〇期(自〇年〇月〇日 至 〇年〇月〇日)の事業報告(添付ご参照)の内容報告の件
2 決議事項
第1号議案 計算書類の承認の件
当社の第〇期(自〇年〇月〇日 至 〇年〇月〇日)の計算書類(添付ご参照)を承認すること
第2号議案 取締役〇名選任の件
〇〇のため、下記の者を取締役に選任すること
取締役 〇〇
取締役 〇〇
第3号議案 〇〇の件
・・・・・・
以上
同意欄
上記の株主総会の報告事項の全てについて、株主総会への報告を要しないことに同意します。
上記の株主総会の決議事項の全てについて、会社提案に同意します。
(または項目ごとに同意するか否かの回答欄を設ける)
〇年〇月〇日
住所 〇〇〇〇
氏名 〇〇 印
※実質的に株主が提案に対して同意したことが確認できる記録が残れば、提案や同意は書面ではなく、電子メール等でのやり取りでも問題はありません。
7. 取締役会の書面決議(みなし決議)の議事録と記載事項
株主総会の書面決議(みなし決議)の議事録に記載すべき事項について、以下に説明します。
議事録に記載すべき事項(会社法施行規則第72条第4項第1号、第2号)
- 提案者の氏名または名称
- 代表取締役等の提案者を記載します。
- 決議や報告があったものとみなされた日
- 決議が成立した日(株主全員の同意の意思表示が会社に到達した日)を記載します。
- 決議の方法
- 書面によるみなし決議であることを明記します。
- 決議や報告があったものとみなされた事項の内容
- 報告事項や決議事項を記載します。
- 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
- 代表取締役等、議事録の作成者の氏名を記載し、署名/記名押印をします。
(参考) 株主総会書面決議(みなし決議)議事録のひな形
第〇回定時/臨時株主総会議事録
1 株主総会の決議があったものとみなされた事項の提案者
代表取締役 〇〇
2 株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
第〇期(自 令和〇年〇月〇日 至 令和〇年〇月〇日)事業報告(添付参照)の内容報告の件
3 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
第1号議案 第〇期(自 令和〇年〇月〇日 至 令和〇年〇月〇日)計算書類(添付参照)の承認の件
第2号議案 取締役〇名選任の件
〇〇のため、下記の者を取締役に選任する
取締役 〇〇
取締役 〇〇
第3号議案 〇〇の件
4 株主総会の決議および株主総会への報告があったものとみなされた日
〇年〇月〇日
以上の通り、会社法第319条第1項および第320条に基づき、株主総会の決議および株主総会への報告があったものとみなされたので、この議事録を作成し、議事録作成者が記名押印する。
以上
〇年〇月〇日
株式会社〇〇第〇回定時/臨時株主総会
議事録作成者 〇〇
8. 株主総会の書面決議(みなし決議)に関するまとめ
株主総会の書面決議(みなし決議)とは、株主全員が書面または電磁的記録(電子メールなど)で同意することで、実際の株主総会を開催せずに決議を行う手続きです。
取締役会の書面決議(みなし決議)のように定款による定めを要さず、報告、決議(特別決議を要する事項にも)ともに利用でき、全株主の同意を得ることが可能な未上場企業にとっては、機動的な意思決定を行うために有効な手段です。
通常の株主総会同様、議事録を作成し保管することに加え、決議の有効性示す証拠として書面決議の提案と株主による同意の証跡を残すことが必要となりますので、手続きと記録の法的な要件を踏まえて実施することが必要です。