
日本の産業界において、持続可能な企業成長を支える仕組みとして、コーポレートガバナンスへの関心がますます高まっています。経営の透明性と説明責任が重視される中、単なる制度の導入にとどまらず、自社の価値創造のあり方と結びつけて、ガバナンスを戦略的に捉える企業も増えてきました。
製造業に特化したエンジニア派遣という独自のポジションで業界を牽引してきたメイテックグループもまた、ガバナンス強化に取り組まれている企業のひとつです。エンジニアの「技術力」を最大の資産とする同グループにとって、経営の根幹を支えるのは、社員一人ひとりのパフォーマンスを最大限に引き出す組織運営であり、ガバナンスはその基盤でもあります。
今回は、株式会社メイテック 代表取締役社長・関口晃介氏と、株式会社メイテックフィルダーズ 代表取締役社長・板倉光朋氏のお二人に、経営トップの視点から見た「経営方針とガバナンス」についてお話を伺いました。両社の「Governance Cloud」導入の狙いと効果を切り口に、実務レベルでの取り組みや、現場と経営をつなぐリアルな課題意識についても迫ります。

- 社名:㈱メイテックグループホールディングス
- 業種:サービス業
- 上場市場:東証プライム
- URL:https://www.meitecgroup-holdings.com/
インタビュー登場者
- 株式会社メイテック 代表取締役社長 関口 潤氏
- 株式会社メイテックフィルダーズ 代表取締役社長 板倉 光朋氏
- Q. まずは、お二人のご経歴と、現在の経営に対するお考えをお聞かせください。
- Q. 社長は何代目ですか?また、バトンが受け継がれてきた背景についても教えてください。
- Q. 50年に渡り競争力を維持し成長されている理由、強みは何だとお考えですか?
- Q. お客様の要望とエンジニアの希望がマッチしないこともあると思いますが、どのようにバランスを取っているのでしょうか?
- Q. 人材が経営上重要とのことですが、採用と教育では、どちらを重視されていますか?
- Q お伺いした経営方針を実現するためのコーポレートガバナンスの基本的な考え方、重視することについて教えてください。
- Q. そのような課題感がある中で「Governance Cloud」を導入された理由を教えてください。
- Q. 「Governance Cloud」が「組織のあり方や働き方にも良い影響を与えている」とは、どのようなことですか?
- Q. 現在、直面している経営上の課題をお聞かせください。
- Q.今後、「Governance Cloud」に期待することをお聞かせください。
Q. まずは、お二人のご経歴と、現在の経営に対するお考えをお聞かせください。

板倉氏「2003年に新卒でメイテックへ入社し、愛知で営業職としてキャリアをスタートさせました。
グループ会社であるメイテックネクストへ異動し人材紹介事業に携わった後、再びメイテックに戻ってからは、営業のみならず、人事・採用・広報・社長室といった本社部門を経験。同社の取締役を経験したのち、2025年1月より株式会社メイテックフィルダーズの代表取締役社長を務めています。
グループ全体としてはエンジニア価値・社員価値・顧客価値・株主価値・社会価値の『5つの価値』を掲げています。そのうえで、事業会社として私が最も大切にしているのは、エンジニアとお客様の双方への価値提供です。両者に対して誠実な価値を提供し続けること、そして、その価値提供を通じて会社の利益を最大化することが最も重要なミッションです。
その実現のために、社内では常に質と量の双方を意識するよう伝えています。量も必要ですが品質が担保されてこそ、私たちが目指す価値提供ができる 。この考え方を、揺るがない軸として持ち続けています。」
関口氏「私は1999年に新卒でメイテックに入社し、営業畑を歩んできました。長野で精密部品関連の営業を担当したのを皮切りに、愛知では自動車関連や航空宇宙分野と、様々なフィールドで経験を重ねてきました。その後、東京の営業所を経て東日本エリアを統括する役員を務め、神奈川・静岡エリアを担当しました。板倉と同じく2025年1月より、株式会社メイテックの代表取締役社長に就任しています。
私たちもまた、エンジニアとお客様の両者への価値提供を最重要視するところは変わりません。メイテックに期待されるのは、設計フェーズの中でも上位レイヤーの仕事です。そのため、採用の質だけでなく、日々のエンジニア教育や配属先の選定、キャリアアップ支援なども非常に重要です。
最終的には、上位レイヤーの仕事にどう関わっていけるかが大切になってくるため、新卒を採用し配属した以降も、キャリア形成を大切にして、60歳を超えても成長し続けられるような教育戦略を練っています。エンジニア一人ひとりの成長とキャリアが、企業価値の向上へとつながっていく。その好循環をつくることが、私たちの経営の根幹です。」
Q. 社長は何代目ですか?また、バトンが受け継がれてきた背景についても教えてください。
関口氏「株式会社メイテックは1974年の設立から、私で5代目の社長になります。創業者から長期的な視野で事業継承が進められてきました。2024年7月には創業50周年を迎えたこともあり、今後の持続的成長を見据えて、私と板倉の新しい世代で、次の時代を担っていくことになりました。」
Q. 50年に渡り競争力を維持し成長されている理由、強みは何だとお考えですか?
板倉氏「長期に渡り、事業を継続できた理由を一つ挙げると、本質的な強みは経営の柔軟さだと考えています。特定の業界や企業グループに属さない独立系であるため、景気や産業構造の変化に対して非常に柔軟に対応できます。
例えば、ある業界の景気が悪化すれば、その技術力を活かして自動車分野や航空宇宙など、他の産業領域へシフトすることが可能です。こうした技術者の業界横断的な移動が事業の中に自然に組み込まれているのが特徴です。
エンジニアの価値を中心に据え、エンジニアが成長することでお客様に良いサービスを提供し、その成果を対価に反映していくという好循環が生まれています。このフレキシブルな人材移動こそが、事業を支える大きな柱だと考えています。

そして、この仕組みを支えているのが、営業・採用・キャリアサポートの3つの機能です。これらが円滑に連携することで、社会の変化にも柔軟に対応できています。この体制が50年続いていることこそが私たちの取り組みの成果であり、今の結果につながっているのだと思います。」
関口氏「私と板倉との関係は、周囲にも良好に映っていると思います。一緒に営業をしていた時期があり、その頃から築いてきた信頼関係が、今も生きています。この信頼は、私たちが連携してグループ経営を進めていくうえで、非常に重要な要素だと感じています。
というのも、グループとはいえ、ある意味で“ライバル関係”でもあります。事業領域が近いため、どうしても競合的な側面が出てきやすい。しかし、私たちはそこを正面から競い合うのではなく、両社でいかに最良のサービスをお客様とエンジニアに提供できるかという視点を大切にしています。だからこそ、経営のトップ同士が密に連携し、情報をしっかりと共有しながら物事を進めていくことができているのです。そうした体制がなければ、今の厳しい市場環境の中で競合には勝てません。」
Q. お客様の要望とエンジニアの希望がマッチしないこともあると思いますが、どのようにバランスを取っているのでしょうか?
板倉氏「近年はワークライフバランスへの関心が高まるなかで、エンジニア一人ひとりの志向やライフスタイルも多様化しています。お客様からのご要求とエンジニア自身の目指すキャリア志向が、マッチしないケースも発生します。
こうした背景から、当社では営業担当が、お客様側とエンジニア側の両面を見ることを重視しています。双方の状況や意向を一人の営業担当が把握し、直接調整を担うことで、リアルな声をタイムリーに届け合える仕組みがあることが強みです。
それを、当社では“エンジニアリングソリューションコーディネーター”という専門スタッフとして、マッチングの質を高めています。お客様とエンジニアの意向を丁寧にくみ取りながら、時には背中を押し、時には説得を重ねて調整を進める。その人の介在があるからこそ、双方にとって納得感のあるアサインが可能になり、バランスの取れた関係性を築いています。」

関口氏「お客様から非常に高く評価いただき、開発のキーマンとして長く活躍してほしいというご意向も多く寄せられますが、そういう優秀なエンジニアこそ、新しい技術や製品にチャレンジし、次のステップに進みたいという希望を持っていることも少なくありません。
そこで当社では、コーディネーターがその調整役として、お客様のニーズとエンジニアのキャリア志向の双方にしっかりと向き合い、最適な着地点を探っていきます。たとえば、コスト面でのメリットや交代のタイミングを提案しながら、双方にとって納得のいく解決策を導き出します。
ただし、このプロセスには一定の時間を要します。同業他社の中には、コストだけを基準に即決するようなケースも見受けられますが、当社は時間をかけて丁寧に対応する方針を貫いています。
スピード感では見劣りする場面があるかもしれませんが、この姿勢こそが、当社の技術力の根幹を支えていると考えています。」
Q. 人材が経営上重要とのことですが、採用と教育では、どちらを重視されていますか?
関口氏「弊社では『連動』という言葉をよく使っています。『連携』ではなく 『連動』です。
営業・採用・キャリアサポートという3つの機能は、それぞれが独立して存在するのではなく、常に連動することが求められます。一つの動きが他の動きに必ず影響を及ぼす、密接な関係性にあるため、いずれか一つを優先したり、手を抜いたりすることはできません。3つの機能が常に同期し、相互に作用しながら機能することで、組織としての強さが生まれるという発想です。ですので、どちらも大切だと考えます。」
板倉氏「中期経営計画でも、営業・採用・キャリアサポートの3つの機能の連携を強化することを課題として挙げています。
メイテックは約8,000人、フィルダーズでも約4,500人と規模が大きくなることで、分業・専門化が進み、営業は営業、採用は採用と、それぞれが独立して動く傾向が強まる傾向があります。
しかし、エンジニアは人です。一人ひとりに、入社 → 教育 → 配属 → OJT・オフJTによる成長といったキャリアの流れがあり、その一連のプロセスがつながってこそ、本来の価値が発揮されます。

お客様のニーズに応えるためには、ダイヤモンドの原石である人材を見出し、育て、磨き上げて、高い付加価値を提供していくことが重要です。どこかの工程が分断されてしまえば、この循環はうまく機能しません。だからこそ、営業・採用・キャリアサポートの3つの機能をしっかりと連携させ、一体的に機能させていくことが、これからの私たちにとって極めて重要であり、果たすべき最大のミッションだと考えています。」
Q お伺いした経営方針を実現するためのコーポレートガバナンスの基本的な考え方、重視することについて教えてください。
板倉氏「当グループでは、コーポレートガバナンスに関する基本方針を定めており、その上で私たち事業会社が最も重視しているのは、事業競争力の強化です。
その実効性を高めるために、社外取締役による監督体制を整え、リスクを抑えたうえで、積極的な挑戦を続けています。また、意思決定のスピードを上げるためにも「Governance Cloud」を活用し、透明性や実効性を高めることにも注力しています。」
関口氏「健全・透明・公正の3つは、どんな事業を進めるうえでも欠かせない基本要素です。これらとどう向き合いながらガバナンスを構築していくかという点では、ホールディングスも事業会社も、本質的に大きな違いはありません。
一方で、ホールディングスが掲げる「5つの価値」を踏まえつつ、私たち事業会社が日々向き合っているのは、お客様・エンジニア・社員というより実務に根ざした3つの視点です。この3つの存在を中心に据え、どう事業を展開し、価値を届けていくかを常に重視しています。」
板倉氏「経営判断において重要なのは、迅速な意思決定と経営資源の適切な配分です。社会の変化がこれだけ激しくなっている今、監督と執行の役割を明確に分け、事業会社として私たちは業務執行に集中する必要があると強く感じています。
近年では労働市場全体が大きく変化しており、競争環境は非常に厳しいです。技術の高度化、多様な就業形態を含む人材の流動化、変化スピードもより速くなっています。
特に、グローバルに競争している企業では、より高度で先進的な技術を持つ人材が求められており、その要求レベルは一層高まっています。このような市場の変化があるなかでも、私たちは流されることなく、常に高い専門性と価値を提供できる方向を目指していきたいと考えています。
そのためには、社会や顧客企業の技術戦略・製品戦略・サービス戦略に柔軟に対応していく必要がありますし、それを実現するには執行のスピードを高めることが不可欠です。ただ、目の前のことだけに集中しすぎると、ガバナンスが疎かになりかねない。だからこそ、監督と執行をしっかり分離し、両立できる体制を整えることが、私たちの大きな狙いです。」
Q. そのような課題感がある中で「Governance Cloud」を導入された理由を教えてください。
関口氏「「Governance Cloud」導入のきっかけは事務局の負担軽減を考えたことでした。加えて、何よりも情報セキュリティの確保が最優先で、そこをしっかり担保できることが導入の決め手となりました。
実際に使い始めてみると、単に事務局の業務を楽にするだけの仕組みではないことが分かりました。使いこなすうちに、システム導入が組織のあり方や働き方にも良い影響を与えていると実感しています。
正直に言えば、こうした先進的なシステムやサービスの存在を知らず、外部の情報に対して一歩遅れていた部分がありました。「Governance Cloud」を利用することで、自分たちは外の動きを十分に見ていなかったという認識を改めて持てたことも、大きな収穫だったと思います。」
板倉氏「SaaSが当たり前の時代となった今、私たちも良い意味でその流れに乗っていく必要がある。そんな認識が社内でも高まってきました。
当社では、業務量が増えても社員が一生懸命に、誠実に対応し続けてくれています。今後は、ICTを活用して、もっと効率的にできる方法を、経営層や現場のリーダーが率先して導入に動いていくことが必要と考えています。その中で、セキュリティや当社に必要な機能面の条件を満たしてることから、「Governance Cloud」を採用させていただきました。
これはガバナンス対応にとどまるものではありません。社内イントラネットやICTを活用したコミュニケーション環境の整備など、より広い意味でのデジタル化の推進は、継続的な経営課題として常に意識しています。」
Q. 「Governance Cloud」が「組織のあり方や働き方にも良い影響を与えている」とは、どのようなことですか?

板倉氏「これまで取締役会の運営には、紙やメールを中心としたやり取りが多く、非常にアナログなプロセスが続いていました。議事録への押印のために各役員を回ったり、私も印鑑を持って会議室に赴いたりすることも日常的でした。
また、会議資料も各部署から個別に提出されたものを所轄部署が手作業でまとめ、議題の整理や資料の共有などに多くの時間と労力を要していました。全体として、準備・運用の事務負担が大きく、非効率な状態でした。しかし、変化のスピードが加速する今の時代においては、そうした事務的な作業に時間を割いている場合ではありません。
求められる技術やニーズが日々移り変わる中で、いかに迅速に意思決定し、現場がすぐに動ける体制をつくれるかが、企業の競争力を左右すると感じています。
取締役会では、新しい挑戦にどう向き合うか、どんなリスクがあるかをしっかり議論した上で、現場がすぐに動ける体制を整えていくことが求められます。そうした議論の質とスピードを両立させる上で、「Governance Cloud」の導入は非常に効果的でした。導入後の事務運営は本当に楽になりましたし、もっと早くやればよかったと思えるくらい、議論の質と効率、スピードが上がったと実感しています。
いまでは経営判断のスピードを高めるために、「Governance Cloud」を活用しています。導入によって事務的な負担が軽減され、他の重要な業務に時間を割けるようになったことが、結果的に意思決定の実効性向上にもつながっています。
また、セキュリティ面がしっかり担保されている点も、非常に重要なポイントです。現在はChatGPTのような生成AIを含め、オープンなものからクローズドなものまで多様なツールが存在しています。そのなかで、セキュリティ面で信頼できないツールは、採用できません。」
Q. 現在、直面している経営上の課題をお聞かせください。
板倉氏「現在抱えている最も大きな課題は、社内の閉じた議論だけでは変革が生まれにくいという点です。
社会の変化がますます加速するなかで、外部の動きや他社の知見をどのように捉え、意思決定に反映していくかが問われています。一方で、取締役会は高い機密性が求められる場でもあり、自社の議論をそのまま外部のAIなどに学習させるわけにはいきません。しかし、それでも私たちは、社内の議論だけでは限界があるという危機感を強く持っています。
だからこそ、外の視点を積極的に取り入れる姿勢が、これからの経営において欠かせないと考えています。」
関口氏「変革の第一歩は、外を見ることです。社内では以前より『ルックアウトサイド(Look Outside)』という言葉を繰り返し言われてきました。ですが、未だに言われ続けているということは、実際には十分に実践できていないことの裏返しでもあります。
どうしても社内のことばかりに目が向き、結果として変化を起こせない状況が続いてきました。中期経営計画のなかでもトランスフォーメーション(変革)を掲げてきましたが、変革とは外部の視点なしには実現できません。今こそ、社外に目を向けるという視点を持つことが、私たちにとって必要不可欠です。」

Q.今後、「Governance Cloud」に期待することをお聞かせください。
板倉氏「すべてをAIに任せてしまえば、画一的で個性のない議論に陥る可能性もあります。経営として本質的に何を判断すべきかを見極める審美眼を養うことが、当社にとって重要です。今後もぜひ、そうした“経営者のわがまま”にも柔軟に応えていただけることを「Governance Cloud」に期待しています。
もう一つ、非常に重要なのがセキュリティです。SaaSの活用が一般化し、ChatGPTのようなオープンなAIもあれば、クローズドな環境で運用されるものもあります。その中で、セキュリティがしっかりと担保されていることは、ツール選定において欠かせない要素であり、対応できていないサービスはどうしても使いづらいです。
私自身、日々多くの情報に触れていますが、それでも「見ている世界が偏っているのではないか」と疑問を抱くことがあります。そうした視野の偏りを正し、より多角的に意思決定できる環境が整うことを、これからの経営において重要視していきたいです。」
編集後記
「人材こそが価値」という言葉を、メイテックグループの両社長は一貫して語っていらっしゃいました。営業・採用・キャリアサポートの3軸を連動させ、エンジニアの成長を支援することが競争力の源泉であること。激動する環境の中でしなやかに戦略を実行するための体制を構築していること。その意図がグループ各社に浸透していること。50年に渡り競争力を維持する理由は、本質的な価値を追求する姿勢とそれを実現する仕組みにあると実感するインタビューでした。
また「Governance Cloud」が組織へ貢献できていると伺い幸甚で、今後もご期待に応えていきたいと存じます。
関口様、板倉様、貴重なお話をありがとうございました。
