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取締役会実効性評価の開示、何を書くか─金融庁「記述情報の開示の好事例集2025」にみる傾向と開示の考え方【2026年改訂対応】

取締役会の実効性評価を実施したあと、多くの事務局が悩むのが、評価結果を有価証券報告書やコーポレート・ガバナンス報告書にどう記載するかです。「実効性は確保されていると評価した」と一行で済ませることもできますが、それでは投資家に伝わりません。一方で、書きすぎれば機微な情報に触れる懸念もあります。

開示のあり方に唯一の正解はありません。各社が、自社のガバナンスの実態と、伝えたいメッセージに照らして、最適な開示を考えるべきものです。ただ、その検討の手がかりとして参考になるのが、金融庁が毎年公表している「記述情報の開示の好事例集」です。投資家・アナリスト・有識者が「参考になる」と評価した実際の開示が、企業名とともに紹介されています。

本記事では、2026年3月27日に最終版が公表された「記述情報の開示の好事例集2025」を取り上げ、そこに採り上げられた実効性評価の開示を読み解き、見えてくる傾向を整理します。この最新版に焦点をあてるのには理由があります。後述のとおり、最新版が示す方向は、2026年に予定されるコーポレートガバナンス・コード改訂が目指す「形式から実質へ」という考え方と通じているからです。今まさに改訂が議論されているこの時期に、評価・開示をどう実質化するかを考えるうえで、最新版は格好の材料になります。

なお、本記事は「これを書けば正解」という型を示すものではありません。あくまで自社の開示を考えるための参考材料として捉えてください。

  • 実効性評価の開示に唯一の正解はない。各社が自社の実態に即して考えるべきもので、金融庁の好事例集はその参考材料。
  • 最新版(2026年3月27日公表「記述情報の開示の好事例集2025」最終版)で実効性評価の好事例として挙がったのは、日清オイリオグループ、日本板硝子、エーザイの3社。いずれも有価証券報告書2025年3月期の開示。
  • 最新版から見える傾向は、前年度に識別した課題への当年度の取組を示すこと、課題と対策を時系列で結ぶこと、評価自体の実効性を担保する仕組みにまで踏み込むこと
  • これらは「型」ではなく傾向にすぎない。自社の評価が改善につながっている実態を、自社の言葉で説明することが本質。
  • この傾向は、2026年のCGコード改訂が目指す「実施の有無から、実質的に機能しているかへ」という方向と一致している。

取締役会の実効性評価の結果開示は、CGコード補充原則4-11③が求める「結果の概要の開示」にあたります。もっとも、「概要」とだけ示されても、どこまで書くべきかの判断は各社に委ねられています。ここに唯一の正解はなく、自社のガバナンスの実態に即して、何をどう伝えるかを各社が考えることになります。

その検討の参考になるのが、金融庁の「記述情報の開示の好事例集」です。金融庁は2018年度から毎年、投資家・アナリスト・有識者と企業による勉強会を開き、投資判断に有用とされた実際の開示を、企業名・記載例とともに公表しています。あくまで「参考になる開示の例」であり、画一的な正解を示すものではありませんが、他社がどう工夫しているかを知る手がかりとして有用です。

実効性評価の開示を参照するなら、最新版を見るのが適切です。本記事が「記述情報の開示の好事例集2025」の最終版(2026年3月27日公表)に焦点をあてるのには、2つの理由があります。

ひとつは、単純に最新だからです。実効性評価の好事例として採り上げられる企業は、毎年入れ替わります。古い版を参照すると、現在の開示水準とずれが生じます。

もうひとつ、より本質的な理由があります。最新版が示す開示の方向性が、2026年に予定されるCGコード改訂の考え方と通じていることです。後述のとおり、最新版で評価されている開示は、評価を形式的に「実施した」と記すにとどまらず、評価が実際に改善につながっている実態を示すものです。これは、2026年改訂が掲げる「形式から実質へ」という方向性とそのまま重なります。改訂が議論されているいまだからこそ、最新の好事例を手がかりに、自社の評価・開示の実質化を考える意義があります。

なお、本記事で参照する開示例は、金融庁ウェブサイトで公開されている 「記述情報の開示の好事例集2025」最終版 のうち、「6.コーポレート・ガバナンスの概要」の開示例(PDF) に基づいています。原典をすぐ参照できるよう、以下では各社の該当箇所も示します。

最新版で、取締役会の実効性評価の開示の好事例として採り上げられたのは、日清オイリオグループ、日本板硝子、エーザイの3社です。いずれも有価証券報告書2025年3月期の開示です。本記事でこの3社を取り上げるのは、最新の好事例集で実効性評価の参考例として紹介されたためです。以下、それぞれの特徴を、金融庁が着目したポイントとともに見ていきます。

日清オイリオグループは、実効性評価を「前年度の課題→当年度の取組→当年度の評価結果→翌年度の課題」という一連の流れで開示しています。

具体的には、まず前年度(2023年度)の評価結果を踏まえた当年度の取組として、「重要な経営課題に関する議論の深化」のためにオフサイトミーティングを開催し、そのテーマ(技術戦略、事業の方向性、次期中期経営計画など)まで具体的に記載しています。次に、当年度の評価の実施内容として、外部機関のサポートを受け、取締役・監査役13名を対象にアンケート形式で調査した項目(取締役会の構成・運営・議論・モニタリング機能、社内外取締役のパフォーマンス、支援体制など)を開示。そして評価結果として、評価が高かった項目と、改善余地のある項目から抽出した翌年度(2025年度)の重点課題(PBR向上、人材戦略、事業ポートフォリオの見直しなど)を示しています。

金融庁は、前年度の評価結果を踏まえた当年度の取組、当年度の評価結果、それを受けた更なる向上のための取組までを丁寧に開示している点に着目しています。評価が一過性で終わらず、改善のサイクルとして回っていることが読み手に伝わる構成です。

日本板硝子は、取締役会だけでなく、指名・監査・報酬の各委員会についても実効性評価を実施していることを開示している点が特徴です。

当年度(2025年3月期)の重点実施事項とその取組内容を一覧で示し、評価プロセス(全取締役へのアンケート〔4段階評価・自由記述〕とフォローアップヒアリングを実施し、独立社外取締役会議で議論)を明らかにしたうえで、翌年度(2026年3月期)の重点課題と重点実施事項まで具体的に開示しています。重点課題には、取締役会資料や事前説明の改善、執行役のサクセッションに関する情報提供の充実など、事務局機能に関わる事項も含まれています。

金融庁は、取締役会のみでなく各委員会についても実効性評価を実施していること、その内容を当年度の取組・評価プロセス・翌年度の取組まで丁寧に開示していることに着目しています。

エーザイは、社外取締役のみで構成する「hhcガバナンス委員会」が毎年、取締役会の経営の監督機能の実効性を評価し、前年度の課題認識に基づいてPDCAを回す仕組みを開示しています。

特徴的なのは、評価プロセスそのものの適正性を担保する仕組みまで開示している点です。同社は2017年度より、評価のプロセスおよび評価結果について、外部機関による点検・レビューを3年に1回実施しています。外部機関が過去の評価方法・決定プロセス・各取締役の評価・最終評価を分析し、制度と運用に指摘・助言を行う、という流れまで具体的に示しています。

金融庁は、評価の仕組みを図解で説明していること、そして評価自体の適正性を外部機関のレビューで担保する仕組みを具体的に開示していることに着目しています。「評価する側の評価」という一段深い透明性を示した例です。

3社の開示と、金融庁が示した「期待する開示のポイント」を重ねると、いくつかの共通した傾向が見えてきます。

第一に、課題の抽出で終わらせず、前年度に識別した課題に対して当年度に何をしたかを示していること。評価して課題を挙げるだけでなく、その課題が翌年どう扱われたかが追えるようになっています。

第二に、これまでの課題と対策を時系列で結びつけて示していること。単年で完結させず、継続して取り組む課題と新たな課題を区別して示すことで、改善が積み重なっていることが伝わります。

第三に、評価そのものの実効性を担保する仕組みにまで踏み込んでいること。エーザイのように、評価プロセスを外部機関がレビューする仕組みを開示する例があり、金融庁もこの点を有用としています。誰がどう評価したかだけでなく、その評価が妥当だとなぜ言えるのかまで示す方向です。

要するに、参考とされている開示に共通するのは、評価が単発の点検ではなく、改善のサイクルとして回っていることが読み手に伝わる、という点です。

ここで強調しておきたいのは、前章の傾向は「これを書けば正解」という型ではない、ということです。好事例として紹介された3社は、いずれも自社のガバナンスの実態に即して、自社の言葉で開示しています。日清オイリオはオフサイトミーティングの議題まで、日本板硝子は委員会単位の重点課題まで、エーザイは外部レビューの仕組みまで、それぞれが自社の取組を具体的に語っているからこそ、参考になる開示になっています。

したがって、他社の開示の体裁だけを真似ても意味は薄く、結論だけを記載する開示や、前年とほぼ同じ文章を繰り返す開示は、評価の実態が伝わりにくくなります。大切なのは、自社の評価が実際にどう改善につながっているかを、自社の言葉で具体的に説明することです。好事例集は、その説明の仕方を考えるうえでの参考材料として活かすのが適切です。

本記事の冒頭で、最新版に焦点をあてる理由として「2026年のCGコード改訂の考え方と通じている」ことを挙げました。ここでその点を補足します。

2026年4月10日に公表されたCGコードの改訂案では、コード全体のプリンシプル化・スリム化が進められ、実効性評価に関する規定(4-11)の一部が新設の解釈指針に移管され、そこで実効性評価の具体的方法が示される方向が示されています。改訂の議論では、実効性評価の実効化による社外取締役の質の確保といった論点も挙がっています。

これは、実効性評価を「実施したか」という形式から、実質的に機能し取締役会の質の向上につながっているかへと focusを移す流れを示すものです。本記事で見た好事例の傾向──評価が改善につながっている実態を示す開示──は、この方向とそのまま重なります。さらに、最新の好事例集では、取締役会の支援体制や事務局(コーポレートセクレタリー)の開示を積極的に行うことも望ましいとされ、日本板硝子のように事務局の役割を明記する企業も現れています。これも2026年改訂で事務局機能の強化が論点となっていることと連動した動きです。

2026年改訂の全体像や、事務局(コーポレートセクレタリー)の位置づけについては、以下の記事もあわせてご覧ください。

補足:改訂案は2026年夏頃の適用が見込まれています(意見募集は2026年5月15日まで)。最新の確定状況は金融庁・東京証券取引所の公表をご確認ください。

評価が改善につながっている実態を開示できるのは、その評価運営が実際にPDCAとして回っているからです。前年の課題が今年どうなったかを書けるのは、過去の課題と対応が整理・蓄積されているからにほかなりません。逆に、アンケートの配布・集計に手一杯では、課題と対応を時系列で追える開示は書きにくくなります。

Governance Cloudは、取締役会など役員会運営をDXで支えるクラウドサービスです。実効性評価については、アンケートの作成・配信・回収・集計を効率化し、過去の評価結果や課題を蓄積・参照できるようにすることで、評価から開示までの一連の流れを支えます。事務局が集計作業に追われず、課題の分析と改善の検討、そして開示の質に時間を割けるよう支援します。

  • 実効性評価の開示に唯一の正解はなく、各社が自社の実態に即して考えるべきもの。その参考材料として金融庁の好事例集がある。
  • 最新版(2026年3月公表「記述情報の開示の好事例集2025」最終版)では、日清オイリオグループ、日本板硝子、エーザイが実効性評価の好事例として紹介された。
  • 共通する傾向は、前年度の課題への当年度の取組を示す、課題と対策を時系列で結ぶ、評価自体の実効性を担保する仕組みに踏み込む、の3点。
  • ただしこれらは型ではなく傾向。自社の評価が改善につながっている実態を、自社の言葉で説明することが本質。
  • この傾向は、2026年改訂が目指す「形式から実質へ」という方向と一致している。

取締役会の実効性評価の運営や開示の充実にご関心のある方は、Governance Cloudまでお気軽にお問い合わせください。資料請求はこちら【Governance Cloud資料請求】

Q. 実効性評価の結果は、どこまで開示する必要がありますか?

A. CGコード補充原則4-11③は「結果の概要」の開示を求めていますが、具体的な範囲は各社の判断に委ねられています。好事例の傾向としては、結論だけでなく、評価のプロセス、抽出した課題、それへの対応まで示す例が参考とされています。

Q. 課題を開示すると、ガバナンスが弱いと見られませんか?

A. 好事例として紹介されている開示の多くは、課題と対応を具体的に示しています。継続して取り組む課題を正直に示すことが、評価が機能している実態として受け止められやすく、結論だけの開示よりも参考とされる傾向があります。

Q. 好事例集はどこで見られますか?

A. 金融庁のウェブサイトで公表されています。最新版は2026年3月27日公表の「記述情報の開示の好事例集2025」最終版で、コーポレート・ガバナンスに関する開示は「6.コーポレート・ガバナンスの概要」の開示例に掲載されています。

Q. 評価のプロセスを外部機関に点検してもらう必要はありますか?

A. 必須ではありません。ただし好事例には、エーザイのように評価プロセス自体を外部機関が定期的にレビューする仕組みを開示し、評価の適正性を示している例があります。評価の客観性をどう担保するかは、各社が自社の状況に応じて考える論点です。

Q. 2026年の改訂で開示の考え方はどう変わりますか?

A. 実効性評価の具体的方法が解釈指針で示される方向で、「実施したか」から「実質的に機能しているか」へと focusが移ると考えられます。評価が改善につながっている実態が見える開示が、一層求められる方向です。

  • 金融庁「記述情報の開示の好事例集2025(最終版)」(2026年3月27日公表、6.「コーポレート・ガバナンスの概要」の開示例)
  • 日清オイリオグループ株式会社/日本板硝子株式会社/エーザイ株式会社 有価証券報告書(いずれも2025年3月期。上記好事例集で採り上げ)
  • 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」補充原則4-11③
  • 金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」事務局説明資料(2026年2月26日)
  • 金融庁・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード改訂案」(2026年4月10日公表)

本記事は2026年6月時点の公表情報に基づきます。制度の最終的な内容は一次情報をご確認ください。開示例の引用は金融庁公表の好事例集に基づくものであり、各社の最新の開示内容は各社の有価証券報告書をご確認ください。

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上村はじめ|ガバナンスクラウド株式会社 代表取締役・公認会計士。上場企業で10年コーポレート担当取締役を務め、投資家とのコミュニケーション、取締役会事務局、常勤取締役の立場を経験。さらに現在は別の上場企業で独立社外取締役・指名報酬委員会委員長を務め、取締役会に関わるあらゆる立場を内側から知る。その知見をもとに、取締役会など役員会運営を効率化する Governance Cloud を創業・運営している。
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Governance Cloud 編集チーム Governance Cloud編集チーム
役員会運営サービス「Governance Cloud」の情報発信チームです。 取締役会運営やコーポレートガバナンスに関する情報発信を行っております。「Governance Cloud」のご利用者など、取締役会等役員会の運営に携わられている方々、コーポレートガバナンスの専門家の皆様との関りから得られた知見に基づき、お役に立つ情報を分かりやすく発信してまいります。