- 1. コーポレートガバナンス・コード2021年の改訂背景
- 2. コーポレートガバナンス・コード2021年の改訂の概要
- 3. 2021年改訂内容詳細
- 1. 原則4-8:独立社外取締役を3分の1以上選任【プライム】
- 2. 補充原則4-11①経営戦略に照らした役員選任とその対応関係(スキル・マトリックス等)の開示
- 3. 補充原則4-11①:他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役選任
- 4. 補充原則4-10①:指名、報酬等委員会の充実(委員会の過半数独立社外取締役を基本【プライム】)
- 5. 補充原則2-4①:管理職における多様性の確保についての考え方と目標、人材育成方針、それらの状況等の開示
- 6.補充原則2-3①:重要な経営課題としてサステナビリティ課題に取り組む
- 7.補充原則3-1③:サステナビリティについての取り組みの適切な開示(TCFDか同等の枠組みによる開示【プライム】)
- 8.補充原則4-2②:サステナビリティについての取り組みの基本方針策定
- 9.補充原則4-8③:支配株主を有する上場会社のガバナンス
- 10.補充原則4-3④:取締役会によるグループ全体の管理体制構築と監督
- 11.補充原則1-2④:議決権電子行使 プラットフォームの利用【プライム】
- 4. まとめ
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1. コーポレートガバナンス・コード2021年の改訂背景
コーポレートガバナンス・コードは、当初2015年に策定された後、普及・定着状況をフォローアップ するとともに、上場会社全体のコーポレートガバナンスの更なる充実に向けて、必要な施策を議論・提言するため「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」にて継続的に審議がなされており、その提言等に基づき、2018年6月に1回目、2021年6月に2回目の改訂が行われました。2021年の改訂は、背景として下記2点が挙げられています。
- コロナ禍を契機とした企業を取り巻く環境の変化の下で新たな成長を実現
- 社会の不確実性が高まる中、持続的成長と中長期的な企業価値の向上の実現に向け、取締役会の機能発揮、企業の中核人材の多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取組みをはじめとするガバナンスの諸課題に企業がスピード感をもって取りむことが重要
- 東京証券取引所の市場区分改革との関連
- プライム市場上場会社は一段高いガバナンスを目指して取組みを進めていくこと、その他の市場の上場会社においても、それぞれの市場の特性に応じつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指してガバナンスの向上に取り組むことが重要
なお、東証市場変更により、コーポレートガバナンス・コードの適用については、グロース市場以外の企業は全原則適用となり、また、プライム市場はより高水準のガバナンスを目指すこととなっています。
出所:コーポレートガバナンス・コードの改訂に伴う実務対応(東京証券取引所,2021/4作成、5更新)
2. コーポレートガバナンス・コード2021年の改訂の概要
上記の背景から、5つの補充原則の新設と13項目の改訂が行われました。改訂のポイントは以下の通りです。
1.取締役会の機能発揮
- 【プライム】独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)
- 経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
- 他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任
- 指名委員会・報酬委員会の設置(【プライム】独立社外取締役を委員会の過半数選任)
2.企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
- 管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標、その状況の開示
- 多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表
3.サステナビリティを巡る課題への取り組み
- サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示
- 【プライム】TCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
4.その他課題
- 上場「子会社」において、独立社外取締役を3分の1以上選任(【プライム】過半数)、又は利益相反管理のための委員会の設置
- 【プライム】議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示の促進
3. 2021年改訂内容詳細
2021年の改訂において、新設または実質的な変更がなされ実務に影響すると思われる内容について、以下、原則ごとに説明いたします。
(取締役会の機能発揮)
1. 原則4-8:独立社外取締役を3分の1以上選任【プライム】
従来、独立社外取締役について、2名以上を選任すべきとされていましたが、プライム市場上場会社は、1/3以上の選任と改訂されました。また、また従来、各種環境(業種・規模・事業特性・機関設計・会計等)を総合的に勘案し必要な場合に、1/3以上の独立取締役を選任すべきとしていたところ、プライム市場上場会社は過半数の選任と改訂されました。プライム市場上場会社へはより高い水準のガバナンスを求める内容となっており、また、一定の場合と条件付きながらも、ガバナンス充実のためには過半数を独立取締役とすることが好ましいという考え方が示されています。
2. 補充原則4-11①経営戦略に照らした役員選任とその対応関係(スキル・マトリックス等)の開示
従来、取締役の選任にあたり「全体としての知識・経験・能力のバランス」等の考慮と選任方針・手続き等に関連する開示を求めていました。改訂コードは、その点を補足し、「経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル等を特定」すること、それらと各取締役のスキルの対応状況と全体のバランスを、スキル・マトリックス等を通じて開示することを求めており、本補充原則の実効性を高める内容となっています。
3. 補充原則4-11①:他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役選任
「独立社外取締役に他社での経営経験を有するものを含めるべき」との文言については、コード改訂に係るフォローアップ会議より「独立社外取締役は、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上でより重要な役割を果たすことが求められるため、他社での経営経験を有する者を含めることが肝要」と提言されたことにより新設されています。独立社外取締役の役割への期待と、監督機能の強化により経営陣のリスクテイクを促すことを目指すコードの趣旨を踏まえたものと考えらます。
4. 補充原則4-10①:指名、報酬等委員会の充実(委員会の過半数独立社外取締役を基本【プライム】)
委員会等設置会社以外の組織形態で、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合に、従来、指名・報酬等の重要事項のを検討する独立した諮問委員会を設置し助言を得ることが推奨されていましたが、改訂により、その対象について、より具体的に後継者計画やジェンダー等の多様性やスキルの観点を含むことが列挙されています。また、プライム市場上場企の場合には、さらに各委員会の構成ついて、過半数の独立社外取締役を基本とすることや、委員会の独立性に関する考え方等を開示することを示しています。
(企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保)
5. 補充原則2-4①:管理職における多様性の確保についての考え方と目標、人材育成方針、それらの状況等の開示
従来、原則 4-11で取締役会における多様性、原則 2-4 において社内における多様性の確保が求められていたところ、管理職等中核人材においても多様性確保への取り組みを求める原則が新設されました。中核人材の多様性(女性・外国人・中途採用者等)を確保するために、企業に対しそれについての考え方、方針や状況を開示することを求める内容となっています。取締役会や経営陣を支える管理職層において多様性が確保され、それらの人材が経験を重ねて、取締役や経営陣に登用される仕組みを構築することが重要との考えによるもので、取締役会の多様性がなかなか進んでいないという現状認識に基づいています。いわゆる開示原則に該当し、本原則にコンプライするためには、上場会社は、登用についての考え方と測定可能な目標、人材育成方針や社内環境整備方針とその実施状況を開示することが必要となります。
(サステナビリティを巡る課題への取り組み)
6.補充原則2-3①:重要な経営課題としてサステナビリティ課題に取り組む
従来、本補充原則では、サステナビリティを巡る課題を重要なリスク管理の一部として触れている程度であったところ、その重要性の高まりや、各社の対応の進展を踏まえ、改訂後は「リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深 めるべきである」として、より積極的な対応を求める記述となっています。
また、ステークホルダーとの適切な協働を求める基本原則2「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」の「考え方」においても、「持続可能な開発目標」(SDGs)が国連サミットで採択されたことや、気候関連財 務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同機関数が増加していること等に触れ、同様の記述が追加されています。
7.補充原則3-1③:サステナビリティについての取り組みの適切な開示(TCFDか同等の枠組みによる開示【プライム】)
改訂により、原則3-1情報開示の充実の補充原則として、サステナビリティについての取り組み開示が新設されました。基本原則2の「考え方」や上記補充原則2-3①の内容を踏まえ、本補充原則により、上場会社すべてに対し、経営戦略等に関連づけて、サステナビリティについての取組みや人的資本や知的財産への投資等について開示・提供すべきとされています。
さらに、プライム市場上場会社は、「気候変動に係るリスク及び収益機会が自社 の事業活動や収益等に与える影響について」、「国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべき」と、開示の水準に対してまで具体的な記述がなされています。TCFDは、企業に対し、気候関連のリスクおよび機会に関連付けて、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標という4つの要素の情報開示を推奨しており、現時点において、気候変動に係るリスクに関してが国際的に確立された開示の枠組みとして示されており、今後、IFRS等による統一的なサステナビリティ開示の枠組みが策定されることを想定し、同等の枠組みを含む記述となっています。
なお、補充原則3-1②において、同様にプライム市場上場会社に限定する形で、英語での開示・提供が必要との記述がなされました。
8.補充原則4-2②:サステナビリティについての取り組みの基本方針策定
同様に、基本原則2の「考え方」や補充原則2-3①の内容を踏まえ、本補充原則が新設されました。取締役会において、サステナビリテ ィを巡る取組みについて基本的な方針策定や、人的資本・知的財産への投資等を含む 経営資源の配分等の戦略の実効的な監督がなされるべきであるとの記述がなされています。
(その他の課題)
9.補充原則4-8③:支配株主を有する上場会社のガバナンス
支配株主を有する上場会社、いわゆる「上場子会社」は、取締役会において独立社外取締役を3分の1以上選任するか、利益相反管理のための特別委員会を設置すべきとの補充原則が新設されました。親会社と上場子会社の少数株主との間に利益相反の構造があるとの認識のもと、取締役会として支配株主からの独立性と株主共同の利益の保護を確保するための手立てを講ずることが必要として追加されたものです。
なお、ここでもプライム市上場会社は、1/3以上ではなく過半数の独立取締役の選任とされており、より高い水準のガバナンスが求めれています。
あわせて、基本原則4「取締役会等の責務」の「考え方」に、「支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはならないのであって、支配株主を有する上場会社には、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の整備が求められる」との記述が追記されています。
10.補充原則4-3④:取締役会によるグループ全体の管理体制構築と監督
従来、本補充原則では、適切なリスクテイクの裏付けとなるとして、取締役会に内部統制や先を見越したリスク管理体制の整備を求めていましたが、改訂により、その対象をグループ全体を含むことが明確化され、また内部監査部門の活用の重要性が強調されました。
11.補充原則1-2④:議決権電子行使 プラットフォームの利用【プライム】
従来、上場会社は、機関投資家や海外投資家の比率等を踏まえ、議決権電子行使プラットフォ ームの利用や招集通知の英訳を進めるべきとされていたところ、改訂により、プライム市場上場会社は、その対象であることが明記されたものです。また、同様に補充原則3-1②において、プライム市場上場会社へは、英語での開示・提供が必要され、株主の状況に応じた環境整備と情報提供の充実が求められてます。
なお、フォローアップ会議の提言では、株主の権利行使の環境整備の観点から、早期の株主総会資料の電子的公表や、株主総会前の有価証券報告書開示、さらには監査を含む情報開示の準備期間と議案検討期間の確保を両立させるため、決算日とは別に議決権行使の基準日を定めること等についても触れられいます。
4. まとめ
2021年改訂では、上述の通り主に取締役会の機能発揮、企業の中核人材の多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取り組みについて、具体的でより踏み込んだ内容が追加または新設されました。また東証によるその後の各社の対応状況調査では、プライム市場上場会社を中心に、改訂された原則を含め順次対応が進められている状況が伺えます。
一方で、同時に改訂された「投資家と企業の対話ガイドライン」では、取締役会の機能発揮やサステナビリティ課題への取り組み等について、より踏み込んだ対応について取り上げていることや、2022年5月に再開されたフォローアップ会議にて、日本企業の成長投資が小幅な伸びに留まっていることが課題視される等、グローバル比較も念頭に定期的な改訂がされるものと考えられます。特に人事に関わる事項等、中長期的な対応が求めらる内容も想定されるため、自社のコーポレート・ガバナンスのあり様を検討するにあたっては、関連する動向を継続的にウォッチしていくことが望ましいといえるでしょう。