コーポレートガバナンス・コードとは?CGコードの全体像

コーポレートガバナンス・コードとは?CGコードの全体像

2015年に日本でコーポレートガバナンス・コードが策定され、その適用に法的な拘束力はないものの、開示や投資家との対話を通じ、上場企業各社はコードの趣旨を踏まえたコーポレート・ガバナンスに関わる取り組みを急速に進めています。本記事では、このように企業経営に大きな影響を与えるコーポレートガバナンス・コードについて、内容や目的、制定の背景など全体像を説明しています。

1. コーポレートガバナンス・コード(CGコード)とは

コーポレートガバナンス・コードとは、実効的なコーポレートガバナンス(企業統治)の実現に資する主要な原則です。日本では2015年に東証が策定し、6月より上場企業に適用されました。

上場規程により、上場企業はコードに関し下記対応が求められます。

  • コードの趣旨・精神を尊重してコーポレート・ガバナンスの充実に取り組む
  • プライム市場・スタンダード市場の上場会社は、コードの全原則について、グロース市場の上場会社は、コードの基本原則について、実施しないものがある場合には、その理由を説明する

2. コーポレートガバナンス・コードの目的

コーポレートガバナンス・コードの目的は、その前文にもあるように、「企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」にあり、コードはそのための意思決定を支える実務的な枠組みを示すものです。そのため、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止に限らず、健全な企業家精神の発揮を促す「攻めのガバナンスの実現」を志向し、また「中長期保有の株主との建設的な対話」により、各社がより実効的な取り組みを進めることを期待しています。

3. コーポレートガバナンス・コードの構成

まず、5つの基本原則があり、さらにそれに紐づく31の原則と47の補充原則三層構造で構成されています。基本原則は実現すべき普遍的な理念・目標、原則はそのために一般的に留意・検討されるべき事項、補充原則は各社において採用が検討されるべきベスト・プラクティスを示しています。

5つの基本原則

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

出所:コーポレートガバナンス・コードの 全原則適用に係る対応について(東京証券取引所,2021/7/21更新)

4. コーポレート・ガバナンス報告書

コーポレート・ガバナンスに関する報告書(コーポレート・ガバナンス報告書)とは、上場企業各社が東証に提出する、ガバナンス関連情報を集約して掲載したもので、各社のコーポレート・ガバナンスの状況を投資者により明確に伝える手段として、東証のウェブサイトに掲載されています。コーポレート・ガバナンス報告書の「Ⅰ基本情報」欄には、各社のコーポレート・ガバナンスの基本方針等に並び、コーポレートガバナンス・コードの各原則のうち、実施しないものがある場合には、その理由や、コードで開示すべきとされている事項が記載されます。

出所:コーポレート・ガバナンスに関する報告書の見方 2022年4月改訂版(東京証券取引所,2022/4)

5. コーポレートガバナンス・コードの特徴

コーポレートガバナンス・コードは原則主義(プリンシプルベース)とコンプライ・オア・エクスプレイン方式を採用しています。原則主義とは、各々の置かれた状況に応じて、実効的なガバナンスを実現できるよう、詳細に規定せず、各原則の趣旨・精神を踏まえ、各社が自社の状況を踏まえて解釈・適用をし、その妥当性は、対話を通じて投資者等のステークホルダーに評価されるという考え方です。

また、コンプライ・オア・エクスプレインは、各原則を「実施するか」、それとも「実施しない理由を説明するか」を各上場会社が選択するもので、個別具体的な事情により、より優れた代替的な取組を採用することを拒むものではないという考え方です。また、一部を実施していないことのみで、コーポレート・ガバナンスが実行的でないと機械的に評価することは不適切あるとされています。

6. コーポレートガバナンス・コード策定の背景

コーポレートガバナンス・コードが策定された背景には、日本企業の長期にわたる株価低迷、国際競争力の低下への懸念がありました。第二次安倍内閣の経済政策(アベノミクス)の「第三の矢」である成長戦略に当たる 「日本再興戦略」(2013年6月14日閣議決定 )は、バブル崩壊後の日本経済は低成長、特に、国際比較において日本企業の生産性や利益率の低さ、産業の新陳代謝が活発ではないといった課題の解消を重要な施策と位置づけ、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すため、機関投資家向けの日本版スチュワードシップコードの取りまとめと、コーポレートガバナンスの強化のため、企業向けの原則の策定を検討することを決定しています。 

続いて翌年の「日本再興戦略」改訂2014(2014年6月24日閣議決定 ) は、日本企業の「稼ぐ力」を高め、その果実を家計にも波及させるため、コーポレートガバナンスの強化やインベストメント・チェーンの高度化を進めるとし、上場企業のコーポレートガバナンス上の諸原則を記載した「コーポレートガバナンス・コード」を策定することが決定されました。また、コードは、日本企業の実情等に沿い、国際的にも評価が得られるものなるよう、東京証券取引所と金融庁を共同事務局とする有識者会議において取りまとめ、2015年の株主総会シーズンまでに東京証券取引所が策定することが決定されました。

7. コーポレートガバナンス・コードのフォローアップと改訂

コーポレートガバナンス・コード適用直後の「日本再興戦略」改訂2015(2015年6月30日閣議決定 )では、健全なリスクテイクを促すことを通じて「攻めのガバナンス」の実現を目指すというコーポレートガバナンス・コードのアプローチについて、国内外に十分な説明・周知を図るとし、対話がコーポレートガバナンス・コードの趣旨・精神にかなった形で円滑に行われるよう、取引所と連携して全般的な状況を把握し、結果を公表することや、スチュワードシップ・コードについても、その趣旨が機関投資家等に十分理解され運用が定着するよう、機関投資家によるコードの受入れ状況を把握、公表するとしています。 これらにより、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードが車の両輪となって、投資家側と会社側双方から企業の持続的な成長が促されることが目指されています。

このため、両コードの普及・定着状況をフォローアップし、上場企業全体のコーポレートガバナンスの更なる充実に向けて、必要な施策を議論・提言することを目的として、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が設置され、2015年9月に第一回の会議が開催されました。コーポレートガバナンス・コードはこのフォローアップ会議の審議と提言を経て、2018年6月と2021年6月に改訂され、現在の形となっています。また、東証は、上場会社が提出したコーポレート・ガバナンスに関する報告書に基づき、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」を集計し公表するとともに、総合的な分析を行った「東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書」を取りまとめています。

8. コーポレートガバナンス・コードの全原則

基本原則:5原則、原則:31原則、補充原則:47原則の合計83原則

基本原則1. 株主の権利・平等性の確保

1-1. 株主の権利の実質的な確保のための適切な対応

1-1① 取締役会による、株主総会で相当数の反対票があった場合の反対理由や原因の分析、株主との対話の要否の検討

1-1② 総会決議事項の一部を取締役会に委任することの検討、委任する際の条件

1-1③ 株主の権利(例:違法行為の差止めや代表訴訟提起に係る権利等)行使を妨げないような配慮

1-2. 株主総会における株主の権利行使に係る環境整備

1-2① 株主総会において株主が適切な判断を行うための適確な情報提供

1-2② 株主総会議案の検討期間の確保、招集通知の発送に先立ったウェブ公表

1-2③ 株主総会関連の日程の適切な設定

1-2④ 議決権の電子行使のための環境整備(例:議決権電子行使プラットフォームの利用等)、招集通知の英訳

1-2⑤ 信託銀行名義で株式を保有する機関投資家の株主総会への出席を認めることの検討

1-3. 資本政策の基本的な方針についての説明

1-4. 政策保有株式がある場合の、縮減に関する方針・考え方など政策保有に関する方針の開示、取締役会での保有目的、便益やリスクと資本コスト等の精査、保有の適否の検証、検証の内容についての開示、政策保有株式に係る具体的な議決権行使基準の策定・開示

1-4① 取引の縮減を示唆することなどにより、政策保有株主による売却等を妨げないこと

1-4② 政策保有株主との間で会社や株主共同の利益を害するような取引を行わないこと

1-5. いわゆる買収防衛策についての適正手続の確保、株主への十分な説明

1-5① 自社の株式が公開買付けに付された場合の取締役会の考え方の説明、株主が公開買付けに応じる権利を不当に妨げないこと

1-6. 支配権の異動や大規模な希釈化をもたらす増資やMBO等についての適正手続の確保、株主への十分な説明

1-7. 関連当事者間の取引を行う場合の利益相反防止手続きの策定・開示

基本原則2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働

2-1. ステークホルダーへの価値創造と企業価値向上の基礎となる経営理念の策定

2-2. ステークホルダーとの適切な協働のための行動準則の策定・実践、国内外の事業活動への浸透

2-2① 行動準則が、形式的な遵守にとどまらず、実質的に実践されているか否かの取締役会によるレビュー

2-3. 社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーへの適切な対応

2-3① サステナビリティを巡る課題についてリスク減少・収益機会につながる重要な経営課題としての認識、積極的・能動的な対応の検討

2-4. 会社の持続的な成長を確保するための、女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保の推進

2-4① 中核人材の登用等における多様性の確保に関する開示

2-5. 内部通報に係る適切な体制整備と取締役会によるその運用状況の監督

2-5① 経営陣から独立した内部通報窓口の設置、情報提供者の秘匿・不利益取扱の禁止に関する規律の整備

2-6. 企業年金の機能発揮のための人事面・運営面における取組み内容の開示、利益相反の管理

基本原則3. 適切な情報開示と透明性の確保

3-1. 以下の情報開示の充実

(ⅰ)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画、

(ⅱ)コードの諸原則を踏まえた、ガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針

(ⅲ)経営陣幹部・取締役の報酬決定の方針と手続

(ⅳ)経営陣幹部・取締役・監査役候補の選解任・指名の方針と手続

(ⅴ)個々の経営陣幹部・取締役・監査役の選解任・指名についての説明

3-1① 取締役会によるひな型的な記述や具体性を欠く記述を避けた、付加価値の高い情報開示(法令に基づく開示を含む)

3-1② 海外投資家等の比率等を踏まえた英語での情報の開示・提供の推進

3-1③ 自社のサステナビリティについての取組みに関する開示

3-2. 外部会計監査人による適正な監査を確保するための適切な対応

3-2① 監査役会による外部会計監査人の選定・評価基準の策定、独立性と専門性を有しているか否かについての確認

3-2② 取締役会・監査役会による、十分な監査時間の確保、外部会計監査人から経営陣幹部へのアクセスの確保、監査役・内部監査部門・社外取締役との十分な連携、外部会計監査人が不正等を発見・指摘した場合の会社側の対応体制の確立

基本原則4. 取締役会等の責務

4-1. 取締役会による経営理念の確立や戦略的な方向付けとそれを踏まえた業務執行の決定

4-1① 経営陣に対する委任の範囲の決定、概要の開示

4-1② 中期経営計画の実現に向けた最善の努力及び未達の場合の対応、次期計画への反映

4-1③ 最高経営責任者等の後継者計画の策定・運用への主体的な関与、後継者候補の計画的な育成のための適切な監督

4-2. 取締役会による経営陣からの提案についての十分な検討、経営陣幹部の迅速・果断な意思決定の支援、経営陣の報酬のインセンティブ付け

4-2① 客観性・透明性ある手続による報酬制度の設計と具体的な報酬額の決定、中長期的な業績と連動する報酬の割合、現金報酬と自社株報酬との割合の適切な設定

4-2② 取締役会による自社のサステナビリティを巡る取組みについての基本的な方針の策定、経営戦略の配分や事業ポートフォリオ戦略の実行の監督

4-3. 取締役会による会社の業績等の適切な評価と人事への適切な反映、正確な情報開示の監督、内部統制やリスク管理体制の整備、関連当事者との利益相反の適切な管理

4-3① 公正かつ透明性の高い手続きによる経営陣幹部の選解任

4-3② 客観性・適時性・透明性ある手続によるCEOの選任

4-3➂ CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続の確立

4-3④ 取締役会はグループ全体を含めた全社的リスク管理体制を構築し、その運用状況の監督

4-4. 監査役(会)による独立した立場からの適切な判断、能動的な権限行使、取締役会等への意見発信

4-4① 監査役会の独立性と高度な情報収集力による実効性向上、社外取締役との連携確保

4-5. 取締役等によるステークホルダーとの協働の確保、会社や株主共同の利益のための行動

4-6. 業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用の検討

4-7. 以下の役割・責務に留意した、独立社外取締役の有効な活用

(ⅰ)経営の方針や経営改善に関する助言(ⅱ)経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じた経営の監督

(ⅲ)会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反の監督(ⅳ)少数株主等のステークホルダーの意見の取締役会への反映

4-8. プライム市場上場会社における独立社外取締役3分の1以上(必要な場合は過半数)の選任、その他市場の上場会社は2名以上(必要な場合は3分の1以上)の選任

4-8① 独立社外取締役による客観的立場に基づく情報交換・認識共有(例:独立社外者のみを構成員とする会合の開催)

4-8② 独立社外取締役による経営陣や監査役との連絡・連携体制の整備(例:互選による「筆頭独立社外取締役」の決定)

4-8③ 支配株主を有する場合、独立社外取締役3分の1以上(プライム市場上場会社は過半数)の選任又は利益が相反する重要な取引・行為について委員会の設置

4-9. 取締役会による独立性判断基準の策定・開示、取締役会における建設的な検討への貢献が期待できる候補者の選定

4-10. 任意の仕組みの活用による統治機能の充実

4-10① 独立した指名委員会・報酬委員会の設置、指名・報酬等の検討におけるそれら委員会の関与・助言

4-11. 取締役会における知識等のバランス、ジェンダーや国際性の面を含む多様性、適正規模を考慮した構成、適切な経験・能力・必要な財務・会計・法務の知識を有する監査役の選任(全員)、財務・会計の十分な知見を有する監査役の選任(1名以上)、取締役会による取締役会の実効性の分析・評価による機能向上

4-11① 取締役会にて必要なスキルの特定、取締役会全体の知識等のバランス、多様性、規模に関する考え方、取締役の有するスキル等の組合わせ、選任に関する方針・手続の開示

4-11② 取締役・監査役によるその役割・責務を適切に果たすための時間・労力の振り向け、他の上場会社役員の兼任数の抑制、兼任状況の開示

4-11③ 取締役会による取締役会の実効性に関する分析・評価、結果の概要の開示

4-12. 取締役会による自由闊達で建設的な議論・意見交換を尊ぶ気風の醸成

4-12① 取締役会の審議の活性化のための対応

(ⅰ)会日に先立った取締役会資料の配布(ⅱ)取締役に対する十分な情報提供

(ⅲ)年間の取締役会開催スケジュールや(予想される)審議事項の決定

(ⅳ)審議項目数・開催頻度の適切な設定(ⅴ)審議時間の十分な確保

4-13. 取締役・監査役による能動的な情報入手、会社に対する追加の情報提供の要求、取締役・監査役の支援体制の整備

4-13① 取締役による会社に対する追加の情報提供の要請、監査役による適切な情報入手

4-13② 取締役・監査役による会社の費用による外部専門家の助言の獲得

4-13③ 取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対して直接報告を行う仕組みの構築、内部監査部門と取締役・監査役との連携の確保

4-14. 取締役・監査役による役割・責務の理解と必要な知識の習得等の研鑽、トレーニングの機会の提供・斡旋や費用支援、取締役会による状況の確認

4-14① 取締役・監査役による役割・責務の理解と会社の事業等に必要な知識の取得、その継続的な更新の機会の獲得

4-14② 取締役・監査役に対するトレーニング方針の開示

基本原則5. 株主との対話

5-1. 株主からの対話申込みに対する合理的な範囲での前向きな対応、取締役会による、対話を促進するための体制整備に関する方針の承認・開示

5-1① 経営陣幹部、社外取締役を含む取締役または監査役による株主との対話(面談)への対応

5-1② 株主との建設的な対話を促進するための方針には以下の点を記載

(ⅰ)建設的な対話が実現するよう目配りを行う経営陣の指定(ⅱ)対話を補助する社内の有機的な連携(ⅲ)個別面談以外の対話の手段の充実(ⅳ)株主の意見・懸念に関する取締役会へのフィードバックのための方策(ⅴ)対話に際してのインサイダー情報の管理の方策

5-1③ 自らの株主構造の把握、株主による把握作業への協力

5-2. 自社の資本コストの把握、収益計画や資本政策の基本的な方針、収益力・資本効率等に関する目標の提示、事業ポートフォリオの見直し、設備投資等に関する方針・計画の株主に対する明確な説明

5-2① 事業ポートフォリオの基本方針や見直しの状況についての説明


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